チェコの楽器、奇妙なスクロール


都内某所の雑居ビルの一室にある弦楽器工房に眠っていた一丁のバイオリン。その中には「Zhotovil JAN PODEŠVA, houslař v Brně roku19」と書かれたラベルが貼ってあった。弦楽器職人のヤン・ポデシュヴァが1900年代にチェコの都市ブルノで作った、という意味だ。いつ作られたのか正確な時期は分からないが、工房の店主は20世紀初頭のものではないかと言っていた。

奇妙な形のスクロール、16世紀の名工マッジーニを思わせる裏板の模様と二重の象嵌、微妙に位置のずれたf字孔、今は汚れてしまったとても柔らかいニス。バイオリンという楽器の大まかなデザインや設計は、近代から現代にかけてほとんど変わっていないにも関わらず、ここまで個性的な楽器を作った理由や背景とは一体何だったのだろう。

ヤナーチェクやカフカの晩年、シュヴァンクマイエルやクンデラが生まれる少し前、もしかしたらこの楽器は当時世界中で大流行したスペイン風邪の惨劇を経験して、どこかにそのウイルスの残骸を留めているのかも知れないと考えたら少し怖くなった。